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イノベーションの実践

イノベーションの実践をしている組織についてのページです。

アイデアを大事にする

イノベーションに優れた会社は、イノベーションがアイデアから始まることを知っている。アイデアは赤ん坊に似ている。小さく未熟で、形も定まらない。有望ではあるが、実績はない。

したがって優れた会社は『馬鹿げたアイデア』とはかだづけない。『この未熟で馬鹿げたアイデアを意味あるもの、可能性のあるもの、機会にするには何が必要か』を考える。アイデアはほとんどが意味あるものにならないことを知っている。アイデアは1000のうち一つか二つしか育たない蛙の卵に似ている。

優れた会社はアイデアを生み出す者に対し、商品、工程、事業、技術に育てる上で必要な作業は何かを考えさせる。『会社としてアイデアに取り組む前に、何をしなければならないか。何を見つけ、何を知らなければならないか』を問う。

小さな改善を行うのも大きなイノベーションを行うのも、同じように難しく、リスクが伴う。

したがって、優れた会社は製品や技術の改良を狙うことはしない。新事業を狙う。イノベーションとは科学や技術の用語ではなく経済の用語である。イノベーションとは、顧客にとっての価値と満足の創造にほかならない。

したがってイノベーションに優れた会社は、イノベーションを科学的、技術的な重要度によってではなく、市場や顧客に対する貢献度によって評価する。技術的なイノベーションと同じように、社会的なイノベーションを重視する。事実20世紀のいかなる技術進歩よりも、月賦販売なる社会的なイノベーションのほうが経済と市場に与えたインパクトは大きかった。

市場は予想外がところにある

イノベーションに優れた会社は、新しいアイデアの最大の市場は予想外のところにある。ダイナマイトは軍事用に開発したが、砲弾に使うには不安定すぎた。

それは岩を取り除くために使われ、つるはしとジャベルに取って代わった。IBMはコンピューターの最大の需要は当初目論んでいた科学と国防ではなく、給与計算や在庫管理の日常業務にあることをいち早く知り、PC市場で支配権を握った。

すべては陳腐化する

イノベーションに優れた会社は、予算からスタートしない。予算は最後にもってくる。会社が生き残るには、どれだけのイノベーションが必要かを明らかにすることからスタートする。

製品、サービス、工程、市場のすべてが陳腐化しつつあり、しかもその速度が速いことを前提とする。すでに存在するものすべての陳腐化の速度を想定し、事業の衰退を防ぐためにイノベーションが埋めるべきギャップの大きさを明らかにする。

そのうえ、そのギャップの数倍に相当するプロジェクトを用意する。なぜなら、実現できるのは多く見ても三分の一だからである。

こうして、ようやく、どれだけの努力と予算が必要かが明らかになる。優れたイノベーションの実績をもつある経営者は、『私は投入すべきエネルギーと予算をさらに倍にすることにしている。競争相手も馬鹿ではないし、うちよりも運がよいこともあるからだ』と言っている。

人を支援する

さらに賢明な会社は、イノベーションを生むのは金ではなく人であることを知っている。イノベーションのための仕事では量よりも質が重要だからである。一流の人材がかかわっていなければ一銭も出さない。やがて成功するイノベーションが、はじめから多額の資金を必要とすることはない。

しかし、自らの身を捧げ、仕事に駆り立てられた何人かの有能な人間を必要とする。賢明な会社は、イノベーションのためのアイデアに見込みのないことが明らかになるまで、プロジェクトそのものではなく、プロジェクトに携わる人とチームを支援する。

別扱いにする

優れた会社はイノベーションのためにアイデアの半分以上が、当初はいかなる成果ももたらさないことを知っている。そこでイノベーションのための企画、予算、計画、管理を既存の事業とは別に扱う。イノベーションに優れた会社は、二つの予算、つまり事業予算とイノベーション予算をもつ。

事業予算は中堅の会社でさえ数百ページにのぼる。イノベーション予算は大企業でさえ五〇ページ以下である。しかし、それらの経営者は、五〇ページのイノベーション予算に対し、五〇〇ページの事業予算以上の時間と注意を向ける。

彼らはそれぞれの予算について別々の問いかけをする。事業予算については、業績を悪化させないためには最小限何が必要か。費用効果を最大にするには最小限何が必要か。

つまるところ最適点はどこか』を問う。イノベーションの予算については、『これは正しい機会か』を問う。答えがイエスならば、『この段階では最大限どれだけの資源が必要か』を問う。イノベーションに優れた会社は、イノベーションの収益が既存の事業の収益とは異質であることを知っている。

イノベーションは長い期間、いかなる収益ももたらさない。もたらすのはコストだけである。しかし、突然収益をあげ始める。成功したイノベーションは投資の数百倍の収益をあげる。そもそもリスクが大きすぎるために、低い収益では割りにあわない。イノベーションの成果として、健全な財務の尺度たる10パーセントの収益率と、10パーセントの伸び率を期待するのは愚かである。

期待しすぎであるとともに期待しなさすぎである。

イノベーションに優れた会社は、イノベーションの成果を投資収益率(ROI)の枠外に置く。イノベーションのためのアイデアやその発展状況の評価、あるいはイノベーションに携わる人たちの報酬の決定において、ROIの数値は使わない。

この点に関する最も時代を経た原則は、新しい事業に関する数字は、その成果が出た二、三年後すなわち揺籃期を過ぎるまで既存の事業に関する数字には含めないという、六〇年前にデュポンが定めたものである。

いかにして手を引くか

イノベーションに優れた会社は、イノベーションのための活動を厳しく管理する。創造性などという言葉は口にしない。創造性とはイノベーションを行わない者が使う言葉である。イノベーションに優れた会社は仕事と自己規律について言う。

このプロジェクトを次に見直すべき段階はどこか、そのときまでいかなる成果を期待するか、それはいつかと問う。二度、三度と目標達成できないときは、努力を倍加しようとは言わずに、何か別のものを手がけるべきではないかと問う。

イノベーションに優れた会社は、古いもの、陳腐化したもの、もはや生産的でないものを廃棄する仕組みをもっている。『品質さえよければ、馬車用のムチの市場はなくならない』とは考えない。人のつくったものは、遅かれ早かれ陳腐化することを知っている。そのため、競争相手によって陳腐化させられるのを待たずに、自らを陳腐化させ、廃棄することを選ぶ。

イノベーションに優れた会社は、ほぼ3年ごとにすべての製品、プロセス、技術、サービス、市場を死刑の裁判にかける。この製品やサービスをいま手がけていなかったとしてなお始めるかを問い、答えがノーであるならば、検討しようとは言わずに、いかにして手を引くべきかを問う。

イノベーションに集中するために

手の引き方の一つが、新たな努力は一切止め、利益を生む間だけ事業を維持していくとおうものである。もう一つの考えが、日本企業が得意とするものであって、競争優位に立つための新しい方法や市場を見つける『展開』である。

そして、もう一つの答えが廃棄である。間違ったものに貴重な資金を注ぎ込んではならない。陳腐化したものの計画的な廃棄こそ、自らの人材のビジョンとエネルギーをイノベーションに集中させる唯一確かな方法である。

巨額の資金を捻出して研究開発を増強していかなければならないことは言うまでもないが、今、何よりも必要とされているのは、イノベーションのための姿勢であり、体制であり、行動である。

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